芽衣の高笑いがフロアに響いた。周囲の者達も芽衣の主張をしっかりと聴いていた。そして亜希が自分が中卒であると認めた事も。これからの亜希はますます扱いやすい存在にさせられたのだ。 ところで芽衣は岩見琴音とは初対面だった。琴音の事は何も知らない。しかし亜希に彼女の事を全てを言わせて、亜希を叱り貶めるネタをにわかにしつらえたのだ。さやかは芽衣にこう指導していた。「あなた自身がわからない事や知らない事は、どんな事も亜希に先にやらせて失敗をさせて、あなたがモノにしていきなさい。部下の失敗を利用して、叱りながら情報や成果を得る事が優秀な上司の資質なのよ。」と新入社員として上司を務めるコツを伝授していた。琴音の名前も先に亜希に言わせて、芽衣はあたかも自分が以前から知っていたかのように装っていた。 実は芽衣の実家は小規模ながら事業を営んでいて、芽衣はしばしば父の会社で事務の手伝いをしていた。営業の高度な仕事は経験がないが、亜希の揚げ足を取るくらいは朝飯前だったのだ。会社はそれも承知していて芽衣を亜希の指導役に付けたのだ。 その後も1分から2分の間にほぼ1人のペースで引っ切り無しに事務系の女子社員がフロアに入ってきた。亜希はそのたびに席から立ち上がっては座り、座っては立ち上がって、芽衣に指示された通りの挨拶を繰り返した。 芽衣は挨拶が終わって亜希が席に座り直すと、事細かく挨拶の難点を突いて亜希を叱った。まるでそれは嫁をイビる小姑のように事細かくて陰湿な叱責だった。「起立の動作が遅すぎるわ!どうしてあなたってイグアナみたいに動きが鈍いの?もっとキビキビ動けないのかしら。ほんとあなたってバカな上にウスノロね。」と今度は亜希の動きについてウスノロと罵倒した。優美も「バカでウスノロの見習い小希ね。ほんとうにいまのあなたにピッタリだわ!」とダメ押しした。その後も