少年を怖がらせないように隣に行っても良いかと問えば静かに首が縦に振られた。棚と天の間で小さく膝を抱える少年は、少しずつ恐怖心は薄らいではいるものの、未だ警戒心がなくなった訳ではない。けれど好奇心に抗うことも難しいようで。 ――隣り合った少年の左手人差し指が天の右手の甲へと伸ばされる。ちょんと触れた指先はぬくい。続け様にトントンと触れられ、その警戒する小動物のような様子に口角があがる。ちらりとそちらを覗いてやると、同じように腕の隙間からこちらを伺う瞳と視線が交差して。天の笑みをみとめて少年が笑う。三日月を描いた瞼はやっと警戒心を解いたようだった。不意に少年が「さっきはありがとう」と言った。 「なんのこと?」 天が首を傾げると、少年はカァッと顔を赤らめ自身の頭を片手で撫でた。その仕草に得心のいった天は微笑み、もう一度くしゃっと髪の毛をかき混ぜる。 「もう痛くないの?」 「……うん」 照れて眉を下げる愛らしい姿に、天は今しがた考えていたことを零していた。「――ボクが名前をつけてあげようか?」パッとあげた顔には、期待と不安が浮かんでいる。 「名前……オレの?」 「ボクで良ければ、だけど」 天がそう苦笑すると、少年が「 どんな名前……?」と恐る恐る上目で伺う。 天は彼の美しい瞳に魅せられてしまった。その色が燃える夕日が沈んでいく地平線と酷似していて。「陸」「りく?」 地面の?と首を傾げる姿が幼く映った。 「キミの目の色が、日没が近付いてどんどんと太陽の色が濃くなって、そうして燃える赤が大地に触れる、あの美しいひと時に似ていると思って」 「それで、陸?」 頷くと、えへへとはにかみながら、陸、陸かぁと少年が呟く。どうやらお気に召したようだ。天も彼の一部を構築したのが己だと思うと胸が甘く、きゅうと疼く。どうしようもなく嬉しかった。