「ん、大丈夫だよ。あとは帰るだけだから。」「気をつけろよ〜もうだいぶ、遅い時間だからな」「わかったよ、ありがと三月」そう言って電話を切ると、決して爽やかとは言えない風が首元を通り過ぎる。 なかなか梅雨が明けず、毎日ジメジメした空気が纏わりつく。メンバー全員での収録を終え、一人雑誌のインタビューを受けるという仕事があった陸は一人で帰路についていた。 疲れてはいるけれど、充実した一日を終え心は晴々としている。雑誌のインタビューでは、尊敬するアーティストを聞かれて思わず「天に、…い、いえ!TRIGGERの九条天さんです!!!」と全力でごまかした。 天が見ていたらお小言をくらったかもなぁと反省しつつも口元には笑みが浮かぶ。(かっこよすぎる天にぃが悪い)そう今日見かけた兄の姿を思い出して一人ぷくっと頰を膨らませた。 かっこよくて完璧な兄は陸にとって自慢の、そして最愛の存在だ。 天がいたから今の自分がある。そう改めて思い大きく伸びをすると、しっかりと空気が胸の奥まで入ってきて、持病が治ったんじゃないかってくらい清々しい。 その空気が少し湿っているのは残念だけれど。「梅雨…早く明けないかなぁ…」この季節は病院にいた記憶が多く、あまり好きではない。 腕に刺さる点滴のための針、鼻と口を覆う酸素マスク、そんな自分を見つめる兄の泣きそうな瞳…「俺よりも天にぃの方がずっと苦しくていたそうな顔してたな」マスクの下で呟くと、自分が言ってしまった言葉が頭の中をよぎる。「なんであんなこと言っちゃったんだろう……」