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義勇が自分を眷属にしたのは錆兎の力を目的としたものではないのはわかっているが、しかし義勇の眷属となったからには死神としての義勇も支えていきたいと思う。<br>霊力の総量を己で増やす事ができない以上、義勇の言うようにその力の扱いを磨き、無駄をなくしていかなくてはならない。<br>十分の一しか力がないというのは、他の死神の眷属達とも条件は同じ。<br>いや、複数の眷属を持つ死神の眷属と比べれば、義勇の唯一の眷属である錆兎は大きな力を持っている事になる。<br>ならば十分の一の力でも、眷属としては務めを果たせるのだろう。<br>十分の一の霊力量を少ないと取るか、十分なものとして取るか。<br>それは錆兎のこれからの努力次第という事だ。<br>「義勇。霊力を意識的に制御するには、どうすればいい」<br>成し遂げてみせよう、男として。<br>眷属としても隣に立つ男としても、義勇に恥ずかしくないだけの男になる。<br>そんな決意を秘めながら真っ直ぐに義勇を見つめる錆兎に、義勇は少し考えるようにしてから答えた。<br>「……やはり、まずは霊力での身体強化から始めるのがいいだろうな。霊力の扱いとしては、これが基本になる。感覚的で大雑把な強化ならば、すぐにできる筈だ。だが、これは基礎ではあるが奥義でもあると、俺は思う。霊力での強化は、魂そのものの強化だ。いかに魂に負荷をかける事無く、より多くの霊力で、効率的な強化を施せるか。力を磨き強大な霊力を扱えるようになればなる程、繊細な力の扱いが重要になってくる。魂にかかる負荷が大きすぎれば、一時的とはいえ身体を動かす事ができなくなる。ただ大きな力を使えればいいというものではない。だからこそ、霊力の扱いを磨くのには最適だ」<br>どうやら霊力での強化というのは奥が深いものらしい。<br>単純に強化といっても、その技量が大きく結果を左右する。<br>だが基礎こそが一番大事だというのは、何事においてもいえる事だ。<br>この霊力での強化こそが死神にとって、鬼殺の剣士にとっての全集中の呼吸と同じ位置づけなのだろう。<br>そう納得する錆兎に、義勇が思い出したように付け足す。<br>「それと、実体化を解いている時は全集中の呼吸は使えない。だから実体化を解いている時の強化手段は、霊力によるものだけになる」<br>「そうなのか?」<br>「実体化を解いてしまえば肺がない」<br>「確かに」<br>思わず納得の声を上げてしまった。<br>そもそも実体を持っていない時は酸素も必要ないわけで。<br>血中に酸素を大量に取り込む事で身体強化をする全集中の呼吸は、実体化を解いてしまえば役に立たなくなってしまうのは道理だった。<br>「だが、実体化していれば、霊力での強化と重ねる事ができる」<br>「それは凄いな。全集中の呼吸で身体機能を上げた上から、霊力でさらに身体能力を上げる事ができるのか」<br>「魂のない身体は、動かない。肉体は魂があってこそ、動かす事ができる。魂を強化すれば、肉体の操作性も機能も上がる。目に見える要素ではないから証明は難しいが……そうだな。鬼がいい例かもしれない」<br>「待て」<br>今とんでもない事を言われた気がする。<br>鬼がいい例とは、どういう事だ。<br>「鬼の身体能力の高さは、魂が強化されているからだと?」<br>「……鬼の魂は、酷く歪だ。歪み過ぎていて、少なくとも俺が知る限りでは死神の手に負えない程に。あれは、もう呪いと言ってもいい。死神の力で歪みを矯正できない要因の一つに、異常なまでの魂の強度がある。歪んだ形で固定……いや、さらに歪もうとする、その力が強すぎて、歪みを正そうにも正せない。歪み続ける魂は捻じれ狂い、ぐちゃぐちゃに絡まり、人ではありえない強度に固まっていく。それだけが鬼の身体能力の高さの理由というわけではないだろうが、その魂の状態も鬼の力の一因だろう」<br>おそらくは誰も知らないだろう鬼の能力の一端が、義勇によって語られる。<br>先程義勇も言っていたが、魂の状態というのは目に見えるものではない。<br>だから人間がこの事を知る事はおそらくないのだろう。<br>魂の状態を見、そこからこうした推察ができるというのは、流石は死神という所なのだろうか。<br>「……魂の状態次第で肉体の能力が変わるのは、わかった」<br>わかった、という事にする。<br>鬼については深く考えては頭がこんがらがってしまいそうだ。<br>とにかく魂の強さは肉体の強さに直結する、とだけ覚えておけばいいだろう。<br>だがしかし、そうなると一つ気になる事がある。<br>「それならば、お前はどうなんだ? 死神ともなれば、その魂の強さは人の比じゃないだろう。だが義勇の力はそこまで人を逸脱しているように思えないんだが」<br>言いながら浮かぶのは、義勇が狭霧山に来たばかりの頃の事。<br>あれはどう考えてもろくに鍛えもしていない、人間の子供の身体能力だった。<br>義勇の言う事と矛盾している。<br>だがその疑問に、義勇は何でもない事のように答えた。<br>「俺は人の身を取っている時は普段、魂の状態を人間のものに落とし込んでいるからな」<br>「そんな事ができるのか?」<br>「力の扱いを磨けば、できる」
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