「――――んっ」 エリィの唇にはセドリックの唇が重ねられる。以前つむじにキスを落とされたときとは違い温もりが伝わってくる。そしてゆっくりと唇と彼の手が離れていった。「本当はもっとしたいけど、同席者がいるからここまでだね」 ニッコリと微笑むセドリックに言われ、すっかり忘れていた一人を思い出す。向かいの席を見れば、シンディが無表情のまま顔を赤らめ小窓の外を見ていた。 つまり甘い時間の一部始終を見られていたわけで――――エリィは穴に隠れたくなった。「ひ、人前でキ、キスは恥ずかしすぎます」「あまりにも可愛い顔していたから甘えたくなったんだ。許して?お陰で頑張れるよ」「そういう言い方ずるいです」 惚れた弱みなのか、セドリックには勝てそうにはない。顔を逸らし、怒るふりをするしかできないことがまた悔しい。「ふっ、ほら機嫌直して欲しいな」 手にひんやりと冷たい物が握らされた。それはアトリエで落とした蝶の髪留めだった。壊れている様子もなく、ブルートパーズの蝶は綺麗に羽を広げている。「ありがとうございます。アトリエから出てくるとき見つからなくて…………良かった」 エリィは安堵し、宝物を胸の前で握りしめた。 王城につけば、セドリックとは簡単に会えなくなる。彼の分身のような髪留めが手元にあるだけで、側にいるって思えてくる。そう思えどセドリックと会えなくなるのは寂しくないはずはなく…………「私も甘えさせてください」「うん、喜んで」 エリィはセドリックの肩に頭を預ける。幸福感を感じながら、王城までの道のりはずっと寄り添った。