……この季封村に来てから、二度目の秋がくる。大切な人と初めて出逢った、あの紅い季節が。「……先輩。今度の日曜って、空いてます?」水曜の放課後。迎えに来た真弘と共に、いつもの村道を歩きながら、珠紀は彼に訊ねてみた。春に紅陵学院を卒業してから、真弘は隣町の専門学校に通っている。一緒に登校することはもう出来ないが、時間がある時はこうして、いつも珠紀を校門まで迎えに来てくれる。たまにクラスメイトに冷やかされることもあって……それを恥かしいと思う時もあったが、やはり一緒にいられて嬉しい気持ちのほうがずっと大きかった。「……あ? 次の日曜? ――ああ、わりぃな。旅行だ」真弘は前を向いて歩いたまま、何気なく言った。「旅行――先輩、旅行に行くんですか!?」突然の話に、珠紀は目を丸くする。「ああ。言ってなかったか?」「今はじめて聞きましたよ!」「そーかぁ? 言ったつもりだっだんだがな。いー忘れてたかなもな」真弘は、頭をがしがしとかきながら呟いた。「ガッコの奴らと行く、研修旅行ってやつだ。……ま、修学旅行みてーなもんだな」そう言うと、真弘は嬉しそうに笑った。「俺、こういうの初めてだぜ。――ああいうのって、やっぱ、夜ホテルで枕投げとかすんだろ!?」真弘は珠紀の方を向き、興奮した瞳で訊ねる。「あ……ええと……そういうのは、小学生とかが……」言いかけて、珠紀はハッと気づいた。真弘たち守護者は、去年まで、この狭い季封村の中から一歩も出ることが許されなかったのだ。友達との旅行も遠足も、きっと一度も体験したことがないに違いない。そんな彼にとって、初めて学校の仲間と行く研修旅行がどれだけ楽しみか――。「……でもそうですね、真弘先輩なら似合うかもしれないですね」「なあんだあ? お前、また俺をバカにしてんのか!」