「りーく!走っちゃ、め!またコンコン、出ちゃうよ!」急に走り出した弟に僕が言葉を投げる。「てんにぃ!大丈夫だよぉ!りく、元気!」ニコッと笑いながら元気に答える弟。もう!と僕が怒る。陸と居たら怖いものも怖くない。痛いものも痛くない。陸と居られれば幸せ。幸せな日々。そう思えたこんな時もあったな、なんて思うと笑みがほろりと零れる。「りーく!転んじゃうよ!ちゃんと前を向いて!」幼い僕が怒りながらも幸せそうに叫ぶ。ここは夢だろう、と思いながらもボクも叫ぶ。「りく、」走ろうとしたらだめ。そう叫ぼうとしても声は出なかった。その代わりなのかヒュッと自分の気管から嫌な音がする。ヒュッ、ヒュッ…そんなボクには気づかないのか陸はどんどんと進んでいく。どんどんと遠くに行ってしまう。陸、そんな遠くに行ったらだめ。そんなに僕から離れたら、だ『天にぃにそんな事を言う資格、あるの?』どこからが聞こえた僕の“弟”の声。『弟?捨てたのにまだ弟って言うんだ。随分と自分勝手だね』違う、捨てたんじゃない。『捨ててないんだ。俺がどんなに叫んでも振り返ってくれなかったのに。』ちが、『何が違うの?俺を捨てたくせに。俺を“殺した”くせに。』陸…『否定しないんだ。…やっぱり俺は捨てられたんだね。僕から離れたらだめって言ったのは天にぃなのに。結局、俺が離れたんじゃなくて 天にぃが俺から離れたんだ。』思わず勢い良く顔を上げる。陸に弁解をしたくて。陸の顔を見ようとして。陸に謝ろうとして。でもそこには立っているはずの陸はいなかった。そこには真っ白な、まるで病院のように真っ白なシーツのベッドがあって…そこには、赤い髪の男の子が… 13歳くらいの…男の子が…白いハンカチのようなものを顔に被せて横たわっていた。ハンカチからは涙のようなものを流したあとがある。 涙?赤いのに?その赤さはまるで血のようで、…ボクにはそのハンカチをめくる覚悟はなかった。ヒュッ、ヒュッと気管が鳴る。ごめん。陸、本当にごめんなさい。