手袋を家に忘れてきてしまった俺は、両手に息を吹き掛けながら君の隣を歩く。温かい空気を残したまま制服のポケットに手を突っ込むと、目の前に見覚えのある手袋が差し出された。「これ、使って良いよ」「ぅえ、良いの?」「うん!今日はクリスマスイブだから、1日早いけど友達にプレゼントとして新しい手袋を貰ったの」俺が手袋を受け取ると、君は鞄の中からピンクの手袋を取り出した。マフラーと言い手袋と言い、ピンク色が好きなのかな。「ありがとう。それにしてもピンク多いね。好きなの?」「そうそう、ピンク好きだよ。このマフラーも、去年の誕生日にプレゼントされたんだ」へぇ、なんて呟いて、再び君の好みを記憶する。いつかプレゼントとかする日が来たら、ピンクの物をあげよう。...まぁ、プレゼントなんてあげられる日が来るとは限らないけれど。「......羽夜って、明日の放課後空いてる?」「うん、空いてるけど...どうしたの?」「いやぁ.........俺彼女とかいないからさ、どうせなら誰かと一緒にクリスマス過ごしたいなって」毎年クリボッチの俺を助けろや誰かぁ...。ジェルとか遠井に会うまでは女遊び激しかったからなぁ。「それ私も思ってた。そろそろクリボッチ卒業したいよねぇ...んじゃ良いよ。一緒どっか行く?」君は笑いながら言った。いや、思考回路俺と同じかよ。つっても、俺にとってはただのクリボッチ卒業の為じゃないんだけどな。せっかく好きな奴の予定聞けたんだから、誘うしかないだろ。「おう、行こうぜ。んー......じゃあ、俺一回帰って羽夜迎え行くわ。遠慮はいらないから」断らせないために、最後に一言付け足した。ジェルが遠井にやってたやつだ。まあ遠井は単純なところあるからなぁ。とにかくツンが多いツンデレって言うかさ。ジェルもたまに見えるあのデレにやられてんだろうなぁ。別に好きとかじゃない俺ですら可愛いと思うもん。「えー、あ、じゃあお願いします」え、ジェルすげえ。軽い気持ちで使ったのが効き目抜群じゃん。「ん、じゃあ俺はここだけど...」「あ、私はこっちだよ。それじゃ、また明日ね」「はーい、またな」控え目に手を振り、俺に背を向けて歩き出した君を見つめる。今日は色々あったな。結果的にジェル居なくて良かったわ。......まって、手袋返し忘れた。