パシャリとシャッターは切られフラッシュが絶え間なく彼らを照らす。陸は軽く手を顔の前に持ってくると眩しそうに目を細めた。しかし天はまるで何かに取り憑かれたかのように、ただじっとそこに座っているけだ。記者がマイクを寄せた机には1枚の原稿がちょこんと乗っていて陸は目線をそこへ落とすと、スっと息を吸い話し始めた。「皆さんこんにちは。アイドリッシュセブンのセンター七瀬陸です。本日は大切なお知らせがあるため、このような形で会見を開かせて頂きました。」その一言で会場はぱっと静まり返った。今度は天が真っ直ぐ前を見て話す。「こんにちは、TRIGGERのセンターの九条天です。今日は右に同じく今後の活動に関わるお知らせをしたく、ここでの会見を開かせて頂きました。」いつもはお転婆で天然なキャラをしている陸も、ファンの前ではいつでも小悪魔で可愛く完璧な天も、今回はまるで別人のようにテレビに映っていた。 陸は一瞬下を向き、表情を暗くしたが前を向く頃にはぱっと表情が切り替わり真っ直ぐと話すのだった。「単刀直入に言います。アイドリッシュセブンのセンター、七瀬陸は本日をもって、2か月間の活動休止を発表します」その言葉に会場は一気にザワつく。それはテレビの前にいるファンや業界人も同じだった。「…これはアイドリッシュセブンを辞めると言う訳ではありません。オレは…昨日のライブ前、つまり1ヶ月位前に肺がんと診断されました。そして肺の一部を切除する手術を行うことも決定しています。…肺の一部が無い状態で歌い、踊ることは大変難しく辞めた方が良いとの厳しい意見も頂きました。…でもオレはこの仕事が大好きです。愛しています。そしてオレのことを応援してくれているファンのみんなの期待や笑顔を守りたいと、思っています。大変勝手だと分かっています…それでもこの闘病生活を乗り越えてアイドルとして復活することをここに誓います。だからどうか、オレのことを待っててくれませんか。そして残されたアイドリッシュセブンの皆を支えてくれませんか。…オレができることはこれくらいなのでっ!どうかこれからもオレたちを支えてくれれば嬉しいです!」暗い話だった、はずが陸は持ち前の笑顔と気合いで皆を暗い顔にはしなかった。最初はざわついていた記者達も気がつけば頑張れ、と声に出しそうなほど彼を応援したくなったのだった。「ふふ、陸ってば元気がいいね」横で微笑んでるのは現代の天使こと九条天。しかし隣のアイドルをいつものように七瀬さんと呼ばなかったことに見ていた人は驚き、カメラを天に移した。「わっ、みんな一気に映さないでよ、緊張するでしょ?」再度ザワついた会場にしれっとした天は淡々と話すのだった。「陸からの発表は以上です。でもまだ終わらないよ?僕からも大切な発表があるんだ。…結構コアなファンの子なら気づいてるかもしれないけど、実は僕達、双子なんです」まるで呼吸をするようにスっと出てきたその単語に見ていた人々は動揺が隠せなかった。全く似ていないわけでもないが、瓜二つ、とまでは言わないこの2人に誰が双子だと思っただろうか。いや、誰も予想はしなかった。しかし、双子だと言われた今はその2人の何もかもが同じように見えてくる。呼吸の仕方、瞬きの数、背丈や容姿。まだ現状に追いつけない会場を眼中に入れていない天はまた話し始めた。「僕は、もともと七瀬天でした。色々あって戸籍上九条になりましたが、双子の陸は大切な家族です。」 「あ、九条さんはオレの兄なんです、オレは弟!」 「ねぇ、陸。なんで九条さんなの?発表もしたし、いつものように天にぃって呼んでよ」 「…天にぃ、今会見中だよ…」 「あっ!すいませんでした((ニコッ」天はパッと前向き何事も無かったかのように天使の微笑みを浮かべる。その誰が見ても異様な光景に空気が固まった。しばらくして、質問時間になったがカメラの前ではイチャつきだす双子に誰も質問出来なく、この記者会見は前代未聞の伝説の記者会見となったのだった。「もう!天にぃは常識を知らないの?!」 「ふふ、そんなに怒らないでよ、明日から入院するんでしょ?」 「記者会見は散々な目に合うし!何も質問されないとか前代未聞だよ!」 「良いじゃない?楽しかったし」 「そうじゃなくて!…今頃ラビったーが凄いことになってるよ…」 「陸は嬉しくないわけ?」 「嬉しいけど〜!」あのお転婆な陸が真面目な人に見えるほど隣に座る天使はいつもの原型をとどめていなかった。しかし2人とも自分達がもう何も気にせず、隠さず活動出来ることに嬉しかったのだった。何も知らない姉鷺が天に鬼電するのはまた別のお話。