ダイレンジャーが紐男爵と戦い、ゴーマ一族との戦いを始める数ヶ月前のこと・・・・・
ゴーマ三幹部の一人、ガラ中佐はたたずんでいた。
その傍らに控える二人の異形。
一人は口紅歌姫。口紅を使って人を意のままに操る能力を持つ。
頭と両肩が口紅の先の形をし、目はなく色艶のある唇だけが強調されている。
もう一人はコピー女帝。対象の写真を胸部で複写することで、
本物と全く同じ姿と能力を持つコピーを生み出すことができる。
いずれも、ゴーマの誇る女性怪人であった。
「兵法は、一に曰わく度[たく]、二に曰わく量、三に曰わく数、四に曰わく称、五に曰わく勝。
地は度を生じ、度は量を生じ、量は数を生じ、数は称を生じ、称は勝を生ず。
・・・・などと孫子に書かれていた。
私がこれを引き合いに何が言いたいか分かるか?お前達」
ガラ中佐は孫子の一節を引き合いに出し二人に尋ねる。
「はっ!兵の数のことではないかと・・・・・・」
口紅歌姫は答える。
その配下の返答にガラ中佐は満足そうに笑みを浮かべた。
「その通り。まもなくゴーマは本格的に地球を征服する。
しかし、何においても兵の数は重要だ。
多いに越したことはない。それも忠実な兵コットポトロがな・・・・
そこでお前達を呼んだ。コピー女帝。」
ガラ中佐はコピー女帝を指さし、コピー女帝は恭しく頭を下げた。
「はっ!」
「お前の能力で、街の人間をコピー人間とすり替えよ。」
「かしこまりました!」
「口紅歌姫。」
「ははっ!」
「わかっておろうな・・・・・・」
ガラ中佐は含み笑いを浮かべ、
口紅歌姫はその真意を察し笑みを浮かべた。
「分かっておりますわ。ガラ様。」
「よし!では征け!!」
「「ははっ!!!」」
二人の女怪人はそれぞれ、人間の女性に変身した。
コピー女帝は女性カメラマンに。
口紅歌姫は口元をローブで覆った妙齢の女性に。
そして、二人は闇に消えた。
「すみませーん。ちょっとよろしいですか?」
とある商店街。道行くOLや商店街の店員、学生などに声をかける女性カメラマンがいた。
コピー女帝の変身した姿である。
「はい?」
声をかけられた女性、白石澄香は突然声をかけられ振り向く。
リクルートスーツを着こなし、肩までの黒髪を整えた清楚な女性だ。
スカートから伸びる脚も、ナチュラルベージュのストッキングの効果で綺麗に見える。
コピー女帝はそんな彼女に微笑みながら話す。
「私、こういう者なんですが、この度、雑誌の特集で
『はたらく女性』というテーマをやっていまして、
写真を撮らせて下さい。」
澄香は突然の申し出に戸惑うも、雑誌に載るという興味が勝った。
「いいですよ。」
「よかったぁ。それじゃ、ポーズを取って下さい。」
コピー女帝は澄香にポーズを取るよう促す。
「はい、チーズ!」
コピー女帝は、持っていたカメラで彼女を写した。
「ありがとうございました。雑誌は来月には発売できると思いますので、
よろしくお願いしまーす。」
コピー女帝はそう言って彼女を帰した。
もちろん、そんな雑誌は存在しない。
(ふふふ・・・・この辺りの人間はほぼ"写し"終えたわね。
今夜にでも・・・・・・)
コピー女帝は、この後起きる展開を想像し、眼鏡の下で邪悪な笑みを浮かべた。
その夜。
一日の仕事を終えて、澄香は家に帰る途中、路地を歩いていた。
仕事も無事に終わり、明日の休みに向けてゆっくりしようと彼女は思っていた。
彼女のアパートがある住宅街の一角。
角を曲がったそのときだった。
「ひっ!?」
澄香は目を疑った。
目の前に現れた女性。それは、澄香と全く同じ顔だったのだ!
それどころか、服装や持ちものに至るまで今の自分と全く同じ姿をしていたのだ!!
「な、何なの貴女!?」
澄香は、戸惑いながらも、もう一人の自分に尋ねる。
「私は、白石澄香よ。」
目の前にいるもう一人の澄香はニタリと笑みを浮かべ答えた。
その表情は、笑みこそ浮かべているが、とても冷ややかなものだった。
「ふ、ふざけないで!澄香は私よ!!」
反論する澄香。しかし、声まで自分と同じ相手を前に恐怖を隠しきれない。
もう一人の澄香は驚愕のあまり動けなくなった澄香に近づいてきた。
「い、いやあっ!!!」
もう一人の澄香は本物の澄香に当て身を放ち、彼女を気絶させた。
そして、2人の澄香は、音もなく、闇に消えた。
「・・・ううっ・・・・・・」
澄香は目を覚ました。
右も左も分からない闇の中に彼女はいた。
それにしても寒い。ここはどこだろうか?
仕事帰りに自分そっくりの女が現れてそこから・・・・・・・・
わけのわからないことが続き、彼女は混乱していた。
「気がついたかしら?」
ふと、声がした。
思わず声の方向を振り向く。
「あ、あなた・・・・!?」
そこには、昼間話しかけられた女性カメラマンがいた。
どういうことだろうか?
「しばらくぶりかしらね?」
こんなところにいるのに平然としている彼女に澄香は戦慄した。
「な、なんなんですかここは!?早く逃げましょう!」
必死に懇願する澄香に、女性カメラマン、いやコピー女帝は笑い返す。
「ふふふ・・・・・その必要はないわ。」
そして瞬く間にコピー女帝は本来の姿に戻った。ゴーマ怪人本来の姿に。
「ひいいいいいいいっっ!!!!」
明らかに人間ではないその異形を前に澄香は絶叫した。
「おほほほほ・・・・改めて初めまして。
私はゴーマの女傑、コピー女帝。」
異形の女の自己紹介など、澄香の耳には入らなかった。
逃げようとしたところ、すぐさま取り押さえられた。
「い、いやああああ!!!」
取り押さえたのは、燕尾服のようなタイツに身を包み、
目や鼻、耳はなく口だけがその頭についている異形の姿をした者だった。
表情がない分余計不気味に見える。
「私は名前の通り、あらゆるもののコピーを生み出せるのよ。
たとえば・・・・・・・」
奥からつかつかとヒールの音が聞こえた。
そこから現れたのは、胸を張っていやらしい笑みを浮かべながら歩いてくるリクルートスーツの女性。
もう一人の澄香、ニセ澄香だった。
澄香は、改めてもう一人の自分を見て絶句した。どう見ても自分にしか見えなかったのだ。
この化物女の言うことを疑う余地はなかった。
「こんな風に、人間のコピーもね。
お前達の使うコピー機など、もう6000年も昔の技術だわ。
彼女は完璧に白石澄香よ。我々ゴーマに忠誠を誓う存在としてね。
そうでしょう澄香?」
コピー女帝はニセ澄香に尋ねる。
「はい、コピー女帝様。私を生み出して下さりありがとうございます。
私、白石澄香は、偉大なるゴーマに忠誠を誓います。」
ニセ澄香はさも当然のように返し、恭しく頭を垂れた。
「おほほほほ・・・・」
コピー女帝は高笑いをした後、本物の澄香に向き直る。
「貴女がこれからどうなるのか・・・・・教えてあげようかしら?」
コピー女帝の言葉に、澄香は戦慄した。
「ど、どうするって言うのよ!?」
澄香はコピー女帝に尋ねる。
「うふふ・・・・あれをごらんなさい。」
コピー女帝の指さした先には、ある女性がいた。
しかし、目は虚ろで口元には紫色のルージュがひかれていた。
澄香はその顔に見覚えがあった。
「あの人は・・・・同じアパートの真奈美さん!?」
澄香は驚愕した。
同じアパートで自分よりも2歳年上の三宅真奈美だった。
澄香と真奈美は、同じアパ-トで歳も近いことから、
一緒に食事とかする仲だったのだ。
真奈美の後ろには、彼女と同じ顔、恰好をした女が立っていた。
コピー女帝が作り出した、ニセ真奈美だった。
そして、真奈美の前に現れたのは・・・・・・
「オホホホホホ!」
ボンデージスタイルの服装に頭と両肩が口紅の形をした異形、口紅歌姫だった。
異形を前にしても、真奈美は動じない。
澄香には、それが不思議でならなかった。
コピー女帝は、そんな澄香の様子を見て話し始める。
「おほほほ・・・・あの娘は口紅歌姫の口紅で意のままに操られてるのよ。
そしてここからが本番だわ・・・・・」
本番?さらに疑問に思う澄香。
そんなことは関係なしに、口紅歌姫は真奈美に近づくと、その顎を掴み、唇を合わせた!!
「ええっ!?」
澄香は驚きの声を上げた。化物とはいえ女同士で・・・・・!?
「んむっ、んふっ・・・・・・・」
口紅歌姫の舌が真奈美の口内を蹂躙する。
しかし、真奈美は目をとろんとさせたままその接吻を受け入れるだけだ。
口紅歌姫は、直接口移しで妖力を真奈美に流し込んでいた。
ある目的のために・・・・・・・
しばらくして、真奈美に変化が起きた。
真奈美の体中が暗い紫色に光り出したかと思うと、真奈美の着ていた白色Tシャツとジーンズが
一瞬で黒い燕尾服様のタイツに変わった。
澄香は、それが今自分を取り押さえている異形が着ているものだとすぐに分かった。
「やめて!!真奈美さんに何をする気なの!?」
澄香はたまらず叫ぶ。しかし、コピー女帝はその叫びを一蹴した。
「おほほほ・・・・・ここからが本番と言ったはずよ。じっくり見るといいわ・・・・」
そうしているうちにも、真奈美の体は紫の光を明滅させ続けていた。
やがて、真奈美のロングヘアーが蒸発するようにしゅわしゅわと溶け、禿げ頭と化した。
髪の毛が溶かされる、女性にとってはどれだけ大惨事か。
しかし、口紅歌姫とのキスに夢中なのか、真奈美は意に介しなかった。
それどころか、より一層上気しているのが見てとれる。
「んむむむむむっっっっっ!!!!」
びくん!びくん!
真奈美は全身をがくがくと痙攣させ始めた。白目をむいたままでだ。
すると、彼女の目、鼻、耳がずぶずぶと水に浸かるように沈んでいったのだ。
口だけを残して、あとはつるつるののっぺらぼうと化した。
そして彼女の顔はみるみる白くなり、頭頂部から彼女の鼻があった辺りまでが黒く変色した。
それは、澄香を取り押さえているあの異形とほぼ変わりない姿だった!
女性らしいプロポーションであることが、唯一それが真奈美だったと伺える。
「んぱあっ!」
口紅歌姫はようやく口づけをやめた。
そして、コットポトロになった真奈美の様子を見て満足げに口元に笑みを浮かべた。
一方、コットポトロに変えられた真奈美は、変化した自分の体をまさぐり、もじもじさせている。
どことなく頬を染め、うっとりとした様子でため息をついていた。
口紅歌姫は、真奈美だったコットポトロの顎を掴み言った。
「オホホホホ!中々の出来だわ。
今日からお前は人間を辞めて我らゴーマの従順な僕として生きるのよ!!」
真奈美だったコットポトロは、何のためらいもなくゴーマ式の敬礼をした。
この瞬間、三宅真奈美は完全に人間であることを辞め、一匹のコットポトロと化したのだった。
「ああ・・・・・真奈美さん・・・・・」
澄香は、目の前で完全に変貌した真奈美に言葉もなかった。
呼びかけても意味がないだろうということはすぐに分かった。
「それじゃあ、お前は三宅真奈美として生活するのよ。」
口紅歌姫は、傍らにいたニセ真奈美に命令する。
「ははっ、口紅歌姫さま。」
ニセ真奈美は、恭しく一礼した後、闇に消えた。
口紅歌姫は澄香に近づく。悠然とした足取りだった。
「初めまして白石澄香さん。でも、もうその名前も意味がなくなるけどね。」
口紅歌姫は、恐怖でこわばった澄香の顔を指でなで回す。
「オホホ・・・・・いい顔してるわねぇ。イイ素材になりそう