それは、陸の病院にお見舞いに来ていた時の事だった。お母さんは手続きがあるからと、看護師さんと一緒に何処かへ行ってしまう。「天、陸のこと、よろしくね。」「うん!お母さん。」陸と病室で二人きりになる。今の陸はとても体調が良いようだった。「また、天にぃの歌が聴きたいな♪」可愛い弟にお願いされたら歌わない訳にはいかない。ボクは、陸が楽しんでくれるならと歌ったり躍ったりして陸をよく楽しませていた。陸は、そんなボクを見て「天にぃ、すごい!かっこいい!」拍手をしながら褒めてくれる。ボクはそれが嬉しくて。 陸の前でだけ、陸だけのスーパースターで居たいと思っていた。陸も、体調が良い時はボクと一緒に歌を歌ってくれた。 あまり歌わせられないのでほんの少しだが。でも、陸と一緒に歌えることが何より幸せだった。ボクはいつものように陸にお願いされ、病室で歌って躍っていた。陸も今日は体調が良いからと、一緒に歌っていた。ふと遠くの方からパチパチパチパチと、手を叩く音が聞こえた。見ると病室のドアの前に見知らぬおじさんが立っていた。「おじさん、だあれ?」「⋯ボク達に何か御用でしょうか?」警戒しているボクに気が付いたのか「あぁ、すまない。急に声を掛けてしまって。歌声が聞こえたのでね。」おじさんは、ペコリと頭を下げて一礼した。「天にぃのお歌を聴きに来たの?」「そうだよ。君達の歌を聞きに来たんだ。」