「簡単にいってくれるわね。竜の血なんて神の鋼オリハルコンレベルの稀少品レアアイテムよ?」「ついこの間までレベル一だった人間が、竜騎士まで駆け上がる稀少レアな出来事イベントを体験したばかりだろ?」 その台詞にイリアは小さく吹き出した。「ああ、そういえばそうだったわね。たしかに、あなたの希少性に比べたら、竜の血もめずらしくはないか――――ねえ、ソラ」「なんだ?」「こんなこと、母さんにもラーズにも頼めなかったんだけど、あなたになら遠慮なく頼めるわ。もし、毒が治らずに、私が生きながら肉のかたまりみたいになっちゃったら……そうなったら…………ッ!」 これまで誰にも吐露できなかった想いを吐き出そうとしたイリアは、ここに至ってなおもためらった。 それを口にすれば、毒に抵抗する気力が失せ、本当にその結末に至ってしまうのではないか、という恐れが口を重くしていた。 そんなイリアの複雑な心を、ソラは一顧いっこだにせずに粉砕する。「安心しろ。そうなったらひと思いに殺してやる」 あっさりと秘めた想いを読み取られ、イリアははじかれたように顔をあげる。「本当? 本当にそうしてくれる?」「本当だ。そもそも、俺が純粋な善意でお前のもとに駆けつけたとでも思ってるのか? 成功すれば、恩に着せてお前を好きにできる。失敗しても、毒より先にお前を殺して恨みを晴らすことができる。どちらに転んでも俺にとっては得しかないわけだ」 そういってけらけらと軽薄そうに笑うソラを、イリアはこれまでと異なる眼差しでじっと見つめた。 いかに病床びょうしょうにあるとはいえ、その軽薄さが演技であることくらい見抜ける。 イリアに恨みを持つ自分ソラだから、いざ殺すときにためらったりはしない、だから安心しろ――そう態度で示してくれているのだ。 もしこの場に他の人間がいれば、ソラの態度を非難したかもしれない。 だが、顔が崩れ始めてからこちら、無痛の地獄を恐れ続けていたイリアにとって、ソラの態度はいかなる励ましよりもありがたいものだった。 たとえ毒に抗えなかったとしても、最悪の事態――無痛の地獄を味わうことだけはない。その保証こそ、イリアが欲してやまないものだったからである。