「まさか……」お昼のたった10分にも満たない会話の中で私が風邪を引いていることを見抜いたというの。恐ろしいほどの観察眼に対し、特例試験にほぼ満点で合格したのも嘘ではないかもしれませんね、とどこかぼんやりした思考のまま、今度こそ人目につかないように静かに帰途へとついたのだった。そして次の風紀委員チェックの日。「また変わらず遅刻ですか市ヶ谷さん」「……今日は3時間目までにきたから優秀ですよ」「本当に優秀なら1時間目に間に合うようにきなさい」「そっちこそ相変わらずですね」すっかり花咲川高校の有名物になったと言われる私と市ヶ谷さんの対決会話。そう言われることに私としても彼女にしても甚だ不本意ではあって。それなら朝から登校すればいいのに、それは一向に改善されていなかった。だから今日も変わらず市ヶ谷さんと対峙する私なのだけど。自分でも気づいていなかった風邪を引いたあの日の思わぬ市ヶ谷さんの優しさが染み入ったらしい私は気づいていなかった。市ヶ谷さんが復帰した私を見た時に、一瞬頬を緩ませるようになったことに。私が市ヶ谷さんの見る目が今までより、少しだけ変化したことに。