そこはまさに豪華絢爛という言葉が似合う空間だった。有名な音楽楽団の演奏が大広間に心地よく響き、各々談笑をしていた。 ふとざわり……と大広間がざわめいた。そこには見目麗しい男性二人に両手を取られ、静静と歩く女性がいた。春の花の様な淡い髪の男性と、長身のアイスグレーの少し癖のある髪の男性の間に、ルビーの様な深紅の髪を結い上げ微笑みを浮かべるその顔に、皆釘つけになった。片割れにいるのは騎士団のガク様よね?あの隣の姫君と男性は誰かしら…? 深窓の姫君とその御付きの方かしら……?こそこそと囁く声はガクとテン、リクの耳にもしっかりと聞こえていた。 「テンにぃ…」 そっと身を寄せるリクの肩をそっと抱き、 不躾に向けられる視線からリクを隠した。 「…わりぃな、テン、リク。さっさと挨拶終わらせてくるから」 「…早くしてね」 そう呟いたテンに、ガクは小さく頷き二人から離れた。 あっという間に見えなくなったガクの背中を見送り、出来るだけ目立たないよう、窓辺の風通りが良い場所に移動する。「初めまして、姫君。貴殿はあの騎士殿とどの様な関係で…?」す、とグラスを差し出され視線を向けると、見知らぬ青年がにこやかに声を掛けてきた。 「あ…」 戸惑うリクを背中に隠し、一歩テンが前に出た。 「お初にお目にかかります、閣下。私共はオーテオフィアス家の者で御座います。許可無く名乗ることが出来かねます」 どうぞお許し下さい、と低頭する。 「オーテオフィアス家……あのガク殿の…」 男は懲りずにリクを見つめる。リクもテンに倣い低頭しているのでその事に気付いていない。 「わかりました、では名は聞かない事に…ですが、一曲、私も踊っては頂けませんか?可憐な人」 そういい、すい、と手袋に被われているリクの手を取った。 「え、あの……」 戸惑うリクを尻目にそのままリクの腰に手を当て、ダンスホールへと連れていってしまった。