次いでメアリはいまだアディの足下にいる少女へと向き直った。 彼女は不安そうにラング達を見つめている。彼女からしてみれば『父をいじめる謎の三人組』とでも映っているのだろうか。トラウマにならないといいが。「うるさくしてごめんなさいね。あの三人は放っておいて、お茶にしましょう」「……アンナ」「アンナ……。それは貴方の名前?」 ポツリと呟かれた名前にメアリが尋ねて返せば、アンナがコクリと頷いた。 どうやら名前を教えるぐらいには警戒心を解いてくれたらしい。メアリがほっと安堵の息を吐きアディへと視線を向ければ、すでにアンナの名前は聞いていおり、メイドや使いに調べさせていると答えた。 アルバート家の優れた使い達が調べてくれているのなら、彼女の身元も親の所在もすぐに見つかるだろう。そのうえ、実弟をからかった詫びなのか、それとも気まぐれか、ロベルトが「それなら私が統括しましょう」と言い出した。「いいの? ロベルト」「えぇ、もちろんです。名前さえ分かればすぐに解決しますし、メアリ様はここでゆっくりとお過ごしください」「さすが、ロベルトおじ様は頼りになるわね」「それは……。彼女の親も心配しているでしょうし、早く動くべきですね。では失礼いたします」 深く頭を下げ、ロベルトが部屋から出ていく。 なんとも優雅な所作ではないか。アンナの親を探すべく一役買い、品の良い挨拶で部屋を出る。さすがといえる流れである。 事情を知らなければ、メアリの叔父様発言にそそくさと逃げたとは思わないだろう。「ロベルトが買って出てくれたなら安心ね。アンナ、もう大丈夫よ。すぐにおうちに帰してあげるわ」「……お父さんも帰る?」「残念だけど、アディは一緒には帰れないの。本当のお父さんを捜してあげるから」 ね、とメアリが穏やかに微笑んで告げる。 だがそれに対してアンナは泣きそうに眉尻を下げるだけだ。ケーキを食べていたフォークをカチンと皿に戻し、アディに抱きつくようにして顔を埋めてしまった。 しまった、とメアリが己の失態を悔やんだ。 励ましたつもりだったが、どうやらアンナは責められていると感じてしまったようだ。これでは逆効果ではないか。 思わずメアリが表情を渋くさせるも、それをチラと見たアンナが更に怯えてアディの影に隠れてしまう。なんという悪循環か。 そんなメアリに見かねたのか、アリシアがさっと横から現れてアンナに声をかけた。