陸の苦しげな告白に、天は何も言ってやることができない。ただ、陸の背中にそっと腕を回しながら、弟の言葉を一字一句聞き漏らすことなく耳に入れて、受け止めてやることしかできない。ところが、陸はそれからそっと天から身体を離すと、相変わらず眉を下げたまま、けれどもにこりと可愛らしい笑みを浮かべてきた。てっきり泣いているのかと思ったのに、そんな表情を見せる陸の姿に、天は呆気にとられた。「…でも、そんなわけ、ないのにね」 「…え……?」陸の言葉に天が小さく首を傾げると、陸は天の隣へと移動してきて、ぽすん、と星柄のクッションに先程天がしていたように身を沈ませた。天が振り返ってそんな陸を驚いたように見れば、えへへ、と陸は無邪気に笑う。「……読んでよ、天にぃ。オレの日記」 「陸…」 「天にぃがデビューした日の日記まで読んだなら、最後まで読んでほしい。お願い、ね、天にぃ」陸の懇願に、天は息を呑む。いつもなら分かりやすい陸の言動が、今は分からなかった。ゆっくりと、天は床に開きっぱなしにされている日記に手を伸ばす。天が両手でそれを掴み、ぱらりと次のページを捲った時、ぽすん、と肩に重みを感じて天は横を向いた。クッションに凭れかかっていた陸が、身体を起こしてきて、今度は自分に体重を預けていた。天は小さく微笑んで、そっと陸の柔らかな髪の毛を撫でた。「…どうしたの、甘えん坊さん」優しい声色の天の肩に、陸は頬を擦り寄らせた。「…大丈夫だよ。天にぃを責めたくて、読んでって言ってるわけじゃないから」 「…陸」 「……読んで、天にぃ」