こちらの予想を裏切る、アナスタシアの先制攻撃。
『水の羽衣亭』の存在感に気圧されたまま、追撃するように歓迎を受けたスバルたちはとっさに彼女への反応が遅れる。
「――ご丁寧にありがとう。私たちの方こそ、わざわざお出迎えにきてもらって安心しました」
ただし、それはエミリアを除いての話だ。
同じだけの驚きを味わっていたはずのエミリアが、アナスタシアに対して穏やかな返答をするのを聞いてスバルは我に返る。見れば、ガーフィールは見覚えのないアナスタシアに怪訝な顔をし、ベアトリスはスバルの袖を掴んで引いている。
旅館の風情が彼女らに与えた影響は、どうやらスバル個人の動揺に比べればずっと少なく済んだようだ。それも当然か。あれに驚くのは、あれを知るものだけだ。