「・・・てんにぃ・・・」 無音の世界に、わずかに漂ってくる芳しい天の香り。 その微かな香りに誘われるように、陸はのろのろと重たい体を動かして、部屋を後にする。 ただその愛しい香りを求めて辿り着いたのは、薄暗く誰もいない脱衣所だった。 だが、確かに彼の香りはここからする。現に、脱衣所の扉を開けた瞬間、陸の全身の血が一気に沸騰したように熱くなった。「・・・あ・・・」 無意識のうちに零れ落ちた吐息は、自分が思っているよりも遥かに甘く上擦っていた。 しかし、それを恥ずかしく思う程の理性は、今の陸の中には残っていなかった。ただ、この部屋に充満する香しい彼のにおい・・・それを嗅ぐだけで、陸の中にいるもう一人の「Ω性としての自分」が、彼の熱を求めてやまなくなるのだ。 よろよろと頼りない足取りでたどりついた陸が見つけたのは、洗濯機の横にある籠に無造作に入れられた、天の服だった。まだ洗っていなかったその服から、愛しい彼の香りが噎せ返る程濃く甘く漂ってくる。「て・・にぃ・・」 ぽつり、呟いた言葉は、誰に届くわけでもなく静寂に呑み込まれていく。 殆ど無意識に手をのばし、愛しい彼の香り漂うTシャツを一枚、胸に抱く。ごろん、と横向きに寝転がって、冷たい床に頬を押し当てる。そんな冷たさを感じたのもほんの一瞬で。すん、鼻から息を吸った瞬間に、甘い香りと耐えられない程の熱さで体中が火照ってしょうがない。「っ・・あぁっ・・」 どくん、全く触っていないのに、下着の中で欲望が弾けた。 いつもなら恥ずかしくて堪らないのに、理性の蕩けきった今はただ、濡れた布が張り付く感触が気持ち悪くて、自ら下着ごとズボンを脱ぎ捨てた。 足りない。 こんなのじゃあ、足りない。 Tシャツに顔を埋め、必死に天を感じながら、後孔に手を伸ばす。一切の躊躇なく指を突き入れるが、既にとろとろに柔らかく蕩けているそこは、すんなりとその指を迎え入れた。「あぁ・・いい・・てに・・ねが・・・」 こんな時、天ならどこをいじるだろう? 天との行為を思い出しながら、指を中で掻き回す。一際感じるしこりをごりごりと擦れば、たまらず前から白濁が飛び散った。 でも、足りない。