新しい部屋にやって来た。 それなりに大人にはなったがまだまだ世間知らずな陸と一緒に、一織は部屋探しを手伝ってくれたのだ。 早急に引っ越したい、そして、引っ越し先を天には知られたくないという陸の願いに、一織は全力で応えてくれた。天がツアーで不在の今しか、離れるチャンスはないと理解していた。天を前にしたら、きっと陸は流されてしまう。 憎んでいるのか、愛しているのか…もうどちらの感情も一緒にぐちゃぐちゃに混ざりあってしまって、簡単に区別することができないでいた。そしてそんな願いの一週間後には、陸は一織とともに新居にいた。 「すごいね……さすがいおり…」 「ま、わけあり対応かもしれませんが、世の中頼めばちゃんと迅速に対応してくれるものですよ」 電化製品以外の家具は、ほとんど処分してしまった。新しい布団を抱えて部屋にどさりと置いたら、いつものように一織に埃がたつからと叱られる。 ベッドもソファも机もない。けど、テレビや冷蔵庫、布団があれば生活は出来る。 環境を変えただけでも、なんだか少しだけすっきりできた気がした。 「メンバーの皆には、うまく言っておきますから」 「……ありがとう」 頼もしく微笑んだ一織は、陸を優しい瞳で見つめてくれていた。一織は掃除を手伝って、簡単に近所の散策にも付き合ってくれて、帰り道にスーパーに寄って食材を買い、夕食を作ってくれて二人で食べた。 「疲れたでしょうから、ゆっくり休んでください。何かあればすぐに連絡してくださいね、私の家は近いので……」 「ありがと、ほんとに」 陸が微笑めば、一織も素直に笑った。こうやってあっさり笑い会えるようになったのも、10年の歳月でお互いが少しは大人になったからかもしれない。一人になった途端に、陸は天のことを考えてしまう。 家族だし、双子だし、人生のほとんどを一緒に過ごしているのだ。恋人の期間だって、とても長い……だめだと思ってテレビをつけたが、あちこちで頻繁に天の結婚の話題が出るので、諦めて電源を落とした。 そりゃそうだろう、トップアイドルの結婚だ。相手は一般人らしい。だから陸も気づかなかったのだろう……仕事以外は、ほとんど一緒にいた。それなのに、こうなった。 …もう、何を信じたらいいのかわからない。 いつ出会ったのか、どうやって逢瀬を重ねていたのか…どのくらい、陸と期間が重なっていたのか……吐きそうになって、考えを変えようとしても、頭のなかは天のことでぐるぐるしていた。 陸は簡単に変装して、家を飛び出す。 いけないと思うが、コンビニで酒を買い込んだ。そう強くない。こうでもしなければ、とても眠れそうになかった。 天がいたなら、身体と喉に悪いからやめなさいと怒られるだろう… こんな風に天をなぞることなんて、したくないのに…涙と一緒に、苦いビールを飲み込む。やっぱり苦くて、お酒なんて大嫌いだと思ったが、倒れるように眠るまで、陸は缶をあおり続けた。