誘惑するような瞳。妖艶な動き。低く芯のある声。 たった一瞬で、この空間を、世界を、自分達のものにしてしまった。 虜にならざるを得ない。とんでもない引力があった。 生まれて初めて体験する高揚感。夢見心地な気分。 自分が知らなかった世界が、そこにはあった。 まばゆいライト。迫力のあるサウンド。きらびやかな衣装を身に纏い、優雅に舞うシルエット。 幼少期に見ていたショークラブとも違う。お客さん達の熱く強い一体感。全員が、ステージの上の3人を求めている。刮目している。そんな感覚があった。 心いっぱいにエネルギーが蓄えられていく。身震いするようなピリピリとした感じ。 歌声、ダンス、表情…パフォーマンスから与えられる摩訶不思議な刺激。 「凄い……」 自然と嘆声を漏らしていた。ペンライトを振るのも忘れて、うっとり見惚れる。 九条天…天にぃは、私のお兄さんは、やっぱり凄い。 間奏やMCの合間には、女の子がドキドキする言葉をどんどん投げかけてくれる。 どうしてそんなにファンの子が喜ぶポイントが分かるんだろう。 きっと、天にぃが…ファンの子が大好きだからなんだろうなあ。 スクリーンに映る天にぃの表情は、常にキメ顔か笑顔だった。 時々ふっと慈愛に満ちた優しい表情を浮かべていた。 「この顔…知ってる」 この空間が、目の前にいるファンの子達が、大好きなんだと存分に伝わってくる顔つきだ。 どうしたら相手が喜んでくれるか、真剣に考えてくれてるんだろうな。 私に対しても、そうだったもんね。 発作が酷いと、言葉を発する事も出来なかった。 それでも天にぃは、私が求めている事を察して、動いてくれた。 天にぃの観察力、相手を理解しようとする姿勢、喜ばせようとする努力…天にぃの根っこの部分は変わっていない。ゆっくりと感じ取って、最後は確信を持てた。 「あっ!九条天!」 「えっ?」 三月が指差した先に、トロッコに乗った天にぃの姿があった。 「来る!こっち来る!」 三月のペンライトを持つ腕に力が入る。周りの子達も、手やうちわを振って、興奮を露わにしている。 「ひっ……」 やばい。ほんとにこっちに来る。 どうしたらいいか分からないまま、天にぃが目の前にやって来た。 「!」 一瞬ばっちり目が合った…ような気がした。 慌ててうちわで顔を隠す。 暫くして腕を下げると、天にぃはもう移動していた。 「うひゃー!やばかったなー!」 「う、うん……」