––––何も知らなかったことで、どれ程自分達の心は守られていたんだろうか藍沢直哉が悪意の刃の矛先を向けていたのは天を主としたTRIGGERだった。本来なら自分達が傷を付けられる筈だったのだ。 しかし、悍ましい程の悪意を偶然か、はたまた予め仕組まれていたものか、知ってしまった結果、深く傷付けられたのは陸だった。とばっちり。身代わり。訳もわからぬまま傷を付けられた陸にとって、そしてメンバーを傷付けられたIDOLiSH7にとってはそのようなものだっただろう。しかし、彼等は優しかった。 お前らのせいだと責めるどころか、傷付けられても尚、必死に自分達の身も心も守ろうとしてくれた。そのお陰で本来当事者であった自分達は何1つ知らずにあの瞬間まで来れたのだ。……その平穏の裏で彼等がどれ程苦しんでいたのかも知らずに。本当は自分達が負う筈だった傷や痛みや苦しみを背負わせてしまっていたことに気付いたのは、MEZZOの2人との雑誌の撮影の時だった。 陸を思い、環は嘆き悲しみ、壮五は静かに怒っていた。…最近の彼等の様子がおかしいことには何となく気付いていた。しかし、傷付くのが怖くてきっと無意識に優しい彼等に甘えていたのだ。 間違っていた。何だろうと静観するのでは無く、行動を起こして早く気が付くべきだった。 それが良いもので無いのなら、秘密は苦しいものだ。それが誰よりもわかっていた筈なのに。陸の背の傷痕はとても酷いものだった。何故あんなことが出来るのだろうか。理解出来ないし、したくも無いけれど、天はきっと自分のせいだと思っている。大切な弟のあんな傷痕を見て、藍沢直哉の思惑通り、深く傷付いただろう。陸を滅茶苦茶に傷付け、そのことで天を傷付け、その2人を思う人達をも傷付けた藍沢直哉はやり過ぎた。とても許されないことをしたのだ。そんな心の無い悪魔のような人物に負けるわけにはいかない。「それじゃ、始めましょうか。1回戦」 「あなたには負けません。絶対に」 「それはどうでしょう。俺、卓球強いですよ」藍沢直哉は龍之介の言葉に対してニコリと笑って言うと、龍之介の耳元で再度口を開いた。「あの一々癪に障る双子諸共、お前ら全員潰してやるよ」顔を離した藍沢直哉はまたニコリと笑う。相変わらずの嘘くさい笑みだが、その表情と言動の不一致さはまるで二重人格のようだ。「そんなことはさせないよ」一体天と陸が何をしたと言うのか。少なくともあんな風に傷付けられるようなことをしたとは到底思えない。藍沢直哉の言っていることは唯の言いがかりに過ぎないし、誰がどう見ても正しい筈が無いのだ。龍之介の返答に、藍沢直哉は静かに笑う。その笑みは氷のように冷たい笑みに思えた。 他人を傷付けて笑う藍沢直哉は、その心に何を思っているのだろうか