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くま クマ 熊 ベアー 作者:くまなのだ~/くまなの
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58/211
56 クマさん、ノアの姉に絡まれる
タタタタタタタタタタタタ
どこかで走ってる足音がする。
タタタタタタタタ
その足音が段々近づいてくる。
「ノ、ア、ちゃん!」
走ってきた人物がノアにダイブする。
「お母様!」
「ノアちゃん、会いたかったわ」
ノアに頬擦りをする女性。
ノアにそっくりな綺麗な金色の髪。
年の頃は25歳前後、ノアのお母さんにしては若い。
顔立ちも似ている。
いったい何歳のときに出産した娘なの?。
「それで、クリフはいないの?」
周りを見渡す女性。
「お父様はまだ街で仕事をしてます。わたしは一人で先に行くように言われました」
「そうなの? 無事に来られて良かった。それでそっちの面白い格好をした子を紹介してくれる?」
面白い格好って初めて言われた。
変な格好とは言われたけど。
どっちもどっちだけど。
「こちらのクマさんの格好をしているのが冒険者のユナさん。王都まで護衛をしてくれました。そして、こっちがフィナ。クマ友達です」
なんだ。そのクマ友みたいな友達は。
「冒険者のユナです。よろしくお願いします」
「フィナです。この度はユナお姉ちゃんに付いてきました」
「あらあら、かわいい子たちね。ここじゃなんだから中に入りましょう」
「でもお母様。なぜ、わたしが王都に来たことを知っているんですか?」
「ああ、門兵にあなたとクリフが来たら、わたしに伝えるように言っておいたのよ。だから、あなたが来たと聞いて仕事も放り出して駆けつけてきたのよ」
仕事を放り出してってそんなことでいいのか。
「さあ、中に入ってあなたの話を聞かせてちょうだい」
広く大きな屋敷の中に入り、客間に案内される。
「部屋はあとで案内するわね。とりあえず座って」
ソファーに座ると、メイドが飲み物を運んでくる。
しばらく飲み物を飲んでいなかったのでありがたく飲ませてもらう。
うん、冷たくて美味しい。
飲み物を飲んで改めてエレローラさんの方を見る。
「エレローラ様、こちらがクリフ様よりお預かりした物です」
クマボックスからゴブリン王の剣が入った箱と手紙を渡す。
「あの人から? なにかしら」
エレローラさんは手紙広げて読み始める。
「これがゴブリン王の剣ね。なかなか珍しい物用意できたのね。しかも、あなたが譲ってくれたのね」
「いえ、たいしたことではありません」
「そのしゃべり方止めない? なにかすごく話しにくそうなんだけど」
「いいの?」
「いいわよ。手紙に書いてあるし」
「どんなふうに書いてあるんですか?」
「まず、絶対に敵に回すな」
「はっ?」
「次に怒らせるな。トラブルを起こすからフォローをしてくれ」
「とんでもなく、迷惑な女に聞こえるね」
「でも、優しくて、ノアも気に入っている冒険者だとも書いてあるわ」
「そう」
「それに、とっても信頼をしているようね」
「そうなの?」
「娘の護衛をあなた1人に任せたのが良い証拠よ。始めはこんな女の子1人に護衛をさせるなんてと思ったけど。1人で、ゴブリン百匹討伐、ゴブリンキング討伐、オーク討伐、タイガーウルフ討伐、ブラックバイパー討伐。ここに書かれている手紙が冗談かと思うぐらいにね」
「はい、ユナさんは凄いです。王都に来るときもオーク6体を1人で倒し、盗賊50人も1人で捕まえたんですよ」
「それ本当なの?」
「はい、そのときにグラン様もいらっしゃましたから証人になってくれますよ」
ノアは王都に来るまでにどんなことがあったのか面白おかしく話した。
久しぶりに会ったお母さんが嬉しいだろう。
「もう、こんな時間ね。そろそろ、シアが帰ってくる頃かしら」
「シア?」
「はい、わたしのお姉さまです。今、王都の学院に通っているんです」
「お姉ちゃんいたの」
「はい。5つ上ですから、少し離れてますけど」
「つまり、15歳ってこと?」
いったい何歳のときの子供よ。
見た目、通り25歳なら10歳のときに子供を生んだことになる。
28歳ぐらいに見れば13歳ときの子供を・・・・・ぎりぎりか。
日本ならアウトである。
「ユナちゃん。なにか、変なことを考えていない?」
「いえ、エレローラさんが若く見えるのでいったい何歳のときに子供を産んだかと思って」
「あら、若いって何歳に見える?」
頬を染めて嬉しそうにするエレローラさん。
「25歳ぐらいかと、それで15歳ぐらいのときにノアを産んだのかと思ったんだけど、5歳も年上の姉がいるとは思わなかったので」
「あらあら、嬉しいこと言ってくれるのね。本当なら年齢は答えないんだけど、ユナちゃんには特別ね。今年で33歳よ」
嘘!、こんなに若く見えるのに。
でも、18歳のときに子供を生んだのか。
「お母様は美人で有名ですから」
「あら、それなら、わたしの子ならノアも美人になるわよ」
「そうなったら、嬉しいです」
ノアが嬉しそうにする。
そんなときにタイミングよく、ドアの向こうが騒がしくなる。
「お母様ただいま! ノアが来たって本当!」
ドアが開き、これもまたノアにそっくりな年上の女の子が部屋に入ってくる。
ノアの姉のシアって子だろう。
「シア、お客様の前よ」
「失礼しました。って、クマ?」
わたしを見て驚く。
「そうですよ。クマに失礼ですよ」
あなたも失礼です。
「お母様。冗談はよしてください」
「ふふ、冗談じゃないわよ。このクマの格好をしたのがこの王都までノアを護衛をしてくれたユナちゃん。隣の子がフィナちゃんよ」
「女の子が三人で王都まで来たんですか。それこそ冗談です。こんな小さい女の子が街から王都まで旅をするなんて」
「そこのあなた、フードをとって立ち上がってくれない?」
別に隠すつもりはないのでクマさんフードを取り、立ち上がる。
長い黒髪が表に出る。
「こんな小さく可愛い女の子が冒険者なんて冗談でしょう。あなた何歳?」
「15歳だけど」
「わたしと同い年? そんな小さいのに」
小さい小さいと連呼するな。
これから成長するんだから。
シアとは同い年なのに頭半分ほど私が小さい。
「お姉さま。ユナさんは強いですよ。ユナさん本人も凄いですが、なによりもクマさんが凄いです」
「クマさん?」
シアは首を傾げる。
そりゃ、いきなりクマが強い言われても意味が分からないだろう。
「そうね。なら、試合をしたらどう。そうしたら、シアも納得するんでしょう」
「ちょっと」
勝手に決めないで欲しい。
「ユナちゃん、娘の相手をお願いね。ああ、怪我をさせてもいいけど。でも、女の子だから大きな傷は止めてね」
「いいよ。その勝負受けるわ」
誰も申し込んでいないし、引き受けないで欲しい。
面倒なことに、わたしの意見を聞かずに話がどんどん進んでいく。
結局試合をすることになり、みんなで中庭に集まる。
「あの子、学園でも上位の強さを持っているせいか、生意気になっているから高い鼻をへし折ってちょうだい」
「お母様! 別にわたしは生意気では」
「あら、そう? 学院では自分よりも強い女子はいないとか言ってなかったけ」
「事実ですから・・・」
「だから、ユナちゃん。この子のこと倒しちゃっていいよ」
うーん、そんなことを言われても、どこまでやっていいのか。
貴族の娘だ。怪我をさせていいと言われても、本当に怪我をさせて恨まれても面倒だ。
「えーと、ユナさんでしたね」
「ええ」
「あなたは剣、魔法どちらが専門なのかしら。どちらでも好きな方を選ばしてあげる」
このパターンって剣で勝つと、次は魔法で戦うことになるんだよね。
「それじゃ、剣で」
メイドさんが木剣を持ってきてくれる。
「それじゃ、いつでもいいわよ」
「いつでも、いいの?」
「いいわよ」
「それじゃお言葉に甘えて行くよ」
クマの踏み込みで一瞬でシアの懐に入り込み、シアが持つ剣を巻き上げるように上に叩きつける。
シアの剣は空中に舞い、わたしの剣がシアの顔の前で止まる。
「これでいい?」
剣を下ろし、シアから離れる。
これで終わってくれればいいんだけど。
「ちょ、ちょっと待ちなさい」
「なに?」
「今の無しよ」
「なんで? あなたはいつでもいいと言って、わたしは攻撃をしただけ。どこにも今の試合を無しにする理由はないよ」
「でも」
「あなた、魔物、盗賊相手に同じことを言うの? 相手の力量がわからず、負けました。だから、やり直しをお願いしますって」
「それは」
「やり直しがやりたければ、学園の中でやってなさい。それ以前に本当にあなた強いの? 貴族様だから、周りから手加減してもらったんじゃないの?」
「そんなことはない」
「それじゃ、何度でも相手になってあげる。かかってきなさい」
このような相手は自分が負けたと自覚するまで時間がかかる。
何度でも負けさせないと駄目な人種だ。
シアは木剣を拾い上げ、わたしに向かってくる。
でも、動きは遅い。
この年代の女の子の知り合いはいないし、強いか弱いかわからない。
向かってくる剣を払いのけて、木剣を首筋で止める。
剣を振り落とす速度も、力もない。
それに駆け引きがない。
相手がどのように防ぐのか、攻撃するのか、何も考えていないように見える。
ゲームなら攻撃のパターンを読み、防御、攻撃をする。
わたしはシアの剣を弾く、避けるだけで、がら空きになった体に剣を向けるだけで終わる。
でも、諦めが悪いのか負けを認めたくないのか、何度も負けても立ち向かってくる。
これだけでは負けを認めさせることは出来ないらしい。
「魔法を使っていいわよ。わたしは使わないから」
「その言葉、後悔させてあげる」
シアの手に火が集まる。
「ファイヤーボール」
わたしに向かってファイヤーボールが飛んでくる。
そんな、単発の火の玉、簡単に避けることができる。
「ファイヤーボール、ファイヤーボール」
避けると、連続で火の玉が飛んでくる。
剣が通じないから火の魔法を連発。
学園では何を教えているのだろうか。
強い、弱いの問題じゃない。
戦い方がなっていない。
魔法と剣が使えるなら二つを組み合わせて戦わないと意味がないだろうに。
これなら、数ヶ月の初心者ゲーマーの方が戦い方を知っている。
経験の差かな。
わたしはゲームの世界で対人戦をそれなりの数をこなしてきた。
喧嘩を売られたとも言う。
この世界で言えば殺し合いの手加減無しの戦い。ゲームの中ではたとえ負けても死なない。ぎりぎりの戦いが経験が出来る。紙一重の戦いを何度も経験をしてきた。
でも、この世界ではそんな経験は出来ない。
負ければ死ぬのだから。
わたしは魔法をくぐり抜け、シアに近づき、手加減してたクマパンチをお腹に当てる。
「くっ・・・」
シアは腰を曲げて膝が地面に落ちる。
ちょっとやりすぎたかな。
「そこまでよ」
「わ、わたしはまだ・・・」
「手加減されているの分かっているでしょう」
「それは、・・・・」
「終了よ」
「お母様・・・・・」
シアはうなだれる。
「それじゃ、食事にしましょう」
シアは母親の言葉に素直に従う。
わたしたちはエレローラさんの言葉で皆食堂に向かう。
たしかにお腹が減ってきた。
「それじゃ、ノアの王都到着とユナちゃん、フィナちゃんの歓迎をしましょう」
歓迎の食事会が始まる。
隣にいるフィナは屋敷に入ってから黙ったままで、食事も小さい口でちまちま食べている。
美味しくないのかな?
それなりに美味しいと思うが日本とくらべると調味料が少ないような気がする。
砂糖、塩、スパイス系はあるが、日本人としては醤油、味噌がないとどうも寂しい。
「お母様。わたし、学園の皆さんや先生に手加減されていたのでしょうか。それをいい気になって」
「うーん、それは違うかな。ユナちゃんが規格外なのよ。たぶん、冒険者ランクで言えばBはあるはずだから」
「Bランク・・・・・・」
Bランクと言われてもピンとこない。
知り合いにBランクはいないし。
どのくらい強さかもわから