金に困っている新人冒険者にとっては、町や街道の雪かきよりもずっと楽な仕事だ。そのため町の周辺で新人冒険者達を見かける機会が、例年より多くなっている。 ちなみに、新人冒険者がやらなくなった雪かきは、スラムの住人の日雇い仕事になっている。「そのせいで町の周辺の雰囲気が、去年までとはちょっと違うからな。だからじゃないか?」「……見覚えの無い冒険者の姿を見かける事が多いなと思ったのは、その通りだが」 モークシーの町は、人の出入りが激しい交易都市だ。それは冒険者も例外ではない。隊商の護衛などをしながら新顔が町を訪れ、逆に顔なじみが旅立つ事は珍しくない。 特に今はロックの仲間達が話したような事情もある。ロックが見覚えの無い冒険者を、何組か見かけても、あり得ないことではない。「そうだな、特に気にするような事じゃないか」 そうロックは考え直すと、仲間達と共に町へ急いだ。パンっと音を立てて男が蟲アンデッドを潰した。「いいんですかい、隊長。それを潰すと、ヴァンダルーに場所が知れますぜ?」「知られて困る時期は終わったからな」 ハジメ・フィトゥンは配下である受肉した英霊達を指揮しながら、モークシーの町に向かっていた。 ハジメは、ヴァンダルーがモークシーの町周辺を、縄張り同然としている事を察していた。そうである以上、下手に隠れても意味は無い。 蟲アンデッドを潰したハジメ・フィトゥンは、すぐにヴァンダルーが現れるような事態に成らなかった事に息を吐いた。「前試した時と同じか。蟲アンデッドの五感や、位置を全て把握している訳じゃないようだ。もしそうだったら、ここに殴り込んでくるだろうからな」 ヴァンダルーが放っている蟲アンデッドを、ハジメはこれまでも何度か潰していた。一度目は【マリオネッター】で操った動物を使って。二度目は動物では無く行きずりの旅人を操って。そして三度目は今、自分自身で。だがヴァンダルーやその手下が現れる事は無かった。「いや、単に様子を見ているだけか。俺達の居場所を把握して、逃がさないよう企んでいる可能性もあるな」 実際、ハジメが試した時はいつでも逃げられるように準備していた。ヴァンダルーは彼らが逃亡しないように、故意に見逃したのかもしれない。「じゃあ、作戦は取りやめますか?」「それは無いですよ、隊長。俺達はいつまでこの身体に入ってりゃいいんですか?」