東京で泊まりの仕事が入ったときには必ずと言っていいほど、加々美蓮司から誘いの電 話が鳴る。 『おう、雅紀。飯でもどうだ?』 いったい、自分のスケジュールをどこまで把握しているのやら...と思いながら。 「はい、大丈夫です」篠宮雅紀がその誘いを断ることは滅多にない。純粋に、加々美との食事が楽しみだからだ。 仕事が一段落したあとに加々美と飲む酒は文句なく美味い。もはや、定番となった和食ダイニング『真砂』での会食。 いつものように大将のおまかせコースを堪能しながらグラスを重ねていると、不意に加々美が言った。 「ところで、なんだけど。尚人君、東京ワンダーランドとかに興味あるか?」いきなりなんの脈絡もなく尚人の名前を持ち出されて、雅紀は面食らう。東京都にあるわけでもないのに『東京』と冠されているのはさておき、TWLが日本一有名な巨大レジャーランドであるのは間違いない。大人も子どもも年齢に関係なく誰もが楽しめる夢空間というのがウリで、一度行ったら病み付きになってリピーターが続出すること でも知られている。残念ながら雅紀は一度も行ったことがない。 昔は家庭の事情で、今はモデルとしての『顔』と『名前』と『肩書き』が邪魔をして。本音を言えば、仕事でもない限りは半端じゃない人混みにわざわざ行きたいとも思わないが。 「実は、オフィシャル・スポンサー特典の無料招待券があるんだけど」 「いつから『アズラエル』がTWLのスポンサ ーになったんですか?」そんな話はまったくの初耳である。