現場に入っても、スタッフからどこか出方を伺っているような表情をされた。 非難する訳でもなく、慰める訳でもない。微妙に距離を取る接し方が、気持ち悪かった。 取材陣にも出くわさないし、共演者から冗談でもその話題を振られない。 一タレントとして事務所に守られている事が、最早恥ずかしくなる。 「おい、天」 「何?蕎麦屋は黙ってて」 「名前呼んだだけだろうが!つーか蕎麦屋じゃねぇよ!」 龍のいない楽屋では、言い合いが止まらない。 それが分かっているからこそ、余計な会話をしたくはなかった。 「聞きたい事がある」 「内容によっては答えないから」 「先に拒否権出すな!週刊誌で出ているお前の妹の件…」 「知らない」 やはりその話題か。言葉を遮ると、予想通り楽の眉間にシワが寄る。 「知らないって…それが兄貴の言葉かよ」 「事務所のサイトで発表しているように、ボクに妹はいない。その子はボクと血の繋がっていない赤の他人」 「俺にはそうは思えない」 「はあ…キミも週刊誌の話に踊らされるタイプ?」 「違ぇよ!完全にデマなら、お前は警告なんて出させず、スルーしたはずだ。だけどお前は突っ込んだ。妹がいたって部分は、本当なんじゃないのか」 「…無関係な女の子を巻き込みたくなかったからだよ」 「…はあ。お前さ、誤魔化すの下手か」 「は?」 「伊達に一緒に活動してねぇんだぞ。微妙な表情の変化くらい分かる。動揺が見え見えだ」 「……」 「俺は、一表現者として、お前の事を尊敬してる。グループにおいて、お前の存在がどれだけ影響を与えたか、貢献をしてきたか、十分分かってる。だから嫌なんだよ。俺の尊敬する奴が、家族に情のないガキだなんて思いたくない。真実を話してくれ」 「アイドルのボクと普段のボクが違う事くらいキミが一番よく知ってるだろうに。理想通りの人間じゃなくて残念だったね」 「天!」 「いいよ。キミの正直さに免じて言ってあげる。ボクは妹と連絡を取っていない。それは本当だよ」 「な……」 楽の目が見開く。驚きとショックが伝わってくる反応だ。 「はい。この話はおしまい。そろそろ時間だから、移動するよ」 「おい!待てよ天」 家族想いの彼にはきっと分からない。ボクの選択を、決断を。 ボクらはただのビジネスパートナー。友達じゃない。嫌いと言われたって構わない。喜んで失望を受け入れようじゃないか。